キャッシュフローを500万円増やすために、いくら売上が必要か?

新たに借入をするにあたって返済を可能にするため、あるいは設備投資や人材の新規採用などにより資金が新たに必要なときに、自力でその資金を捻出しようとする場合には、経費の節減、遊休資産の売却、あるいは”売上で稼ぐ”というような手段を検討することになります。ここでは、自力で資金を用意するための売上目標の算出方法について解説します。売上と利益の関係をよく理解していないと、的外れな目標を立ててしまう事になりかねません。目標の立て方についてしっかり確認しておきましょう。

目次

キャッシュフローとは?

本来キャッシュフローとは、入金や出金などの”お金の流れ”のことを意味しますが、損益計算上の利益を源泉とした資金の増加額というような意味での使われ方も見受けられます。ここでは、”自由にその使い道を決定できる資金”と定義します。これはフリーキャッシュフローとも呼ばれます。

売上目標の計算方法

キャッシュフローを確保するために必要な売上高の計算式は次の通りです。ご覧のように、計算過程を分かり易くするため段階を経て計算しています。

利益には法人税等がかかりますので、これを考慮したのち必要な売上高を計算する必要がありますが、繰越欠損金があって利益があっても法人税等が課税されないことが明らかな場合は①の計算を省いて、②の計算式を用います。このとき”必要な税引前利益”を”必要なキャッシュフローの額”に置き換えて計算してください。

① 必要なキャッシュフロー÷(1ー法人税等の実効税率)=必要な税引前利益
② 必要な税引前利益÷限界利益率=必要な売上高

前述の計算項目の言葉の意味が理解できれば以下の解説を読む必要はありませんので、読み飛ばして頂いて”目標を設定する際の注意事項”をご覧ください。

限界利益とは何か? 自社の損益の構造を知る

売上の算定をするにあたって、損益計算書から必要な情報を抽出する必要がありますので、これについて解説します。

会社法の規定によって作成される損益計算書では使われない費用や収益の概念に、変動費、固定費、限界利益というものがあります。管理会計や経営分析を学んだ人には馴染みのある言葉ですが、そうでない人のために言葉を意味を確認しておきます。

変動費とは、売上高の増減に対応して増減する費用を言いますので、変動費は売上高と比例関係にあります。小売業における商品の仕入原価が代表的なものです。一方、固定費とは売上高の増減とは関係なく発生する費用を言います。人件費はその代表的なものです。今回のテーマでは固定費は直接関係しませんが、経営分析等をする際には必ず出てきますのでこの機会に覚えておくと良いでしょう。

キャッシュフローの計算をするための計算要素である限界利益率を知るために、まず損益計算書において発生している費用を変動費と固定費の2つに分ける必要があります。これが出来れば、限界利益は売上高から変動費を差し引けば求められますし、限界利益を売上高で除せば限界利益率を計算できます。限界利益とは、売上高が1単位増えたときに増加する利益を意味します。

例えば、年間の売上高が100百万円で、変動費が80百万円なら、限界利益は20百万円(100-80)ですから、限界利益率は20%(20÷100)になります。売上高が更に10百万円増えれば、変動費は8百万円発生し、限界利益は2百万円増加することになります。

言い方を変えると、限界利益を2百万円増やそうとするなら売上高は10百万円必要になるという事です。これを計算式で表すと、必要な限界利益÷限界利益率=必要な売上高 となります。

次に、変動費とは損益計算書に記載されるどの科目が該当するかについて掘り下げて説明します。変動費は主に売上原価にその殆どが含まれていることが多いのですが、次のように業種によって大きく変動費となる科目に違いがあります。

小売業、卸売業の場合

この業種においては、売上原価が変動費に該当します。売上原価を構成する科目に、期首棚卸高、商品仕入高、期末棚卸高がありますが、これらを加減して算出したのが売上原価です。因みに、売上原価の内訳科目である商品仕入高は一定期間に購入した額(売れた分の額ではない)であるため、売上高とは対応しません。期首と期末の棚卸高を考慮して売れた分の仕入原価を計算したものが売上原価となりますから、売上原価は売上高と対応関係があります。

もっとも期首と期末の在庫に変動が無い場合には仕入高=売上原価になるので、在庫の変動が僅少で変動費比率に与える影響が少ないなら商品仕入高を変動費と捉えても問題ありません。このあたりは許容する誤差の範囲によって決めれば良いと思います。

売上原価以外に販売費および一般管理費の中に変動費が含まれている場合があります。代表的なものに、荷造発送費や販売手数料があります。いずれも売上が生ずればそれに伴って発生する費用です。科目の名称や使い方は企業それぞれに違いがあるので、あくまでも売上の発生に連動して生じる費用を変動費と捉えて下さい。

製造業の場合

この業種の場合、製造原価報告書が損益計算書に加わります。製造原価は、大きく材料費、人件費、経費の3つに分かれていて、それぞれに細かな科目が設定されていますので、その科目一つ一つについて売上との比例関係の有無を確認する必要がありますが、一般的には、材料費、消耗品費、光熱費(操業度に関係するもの)、運送費などが変動費となります。

これらの科目はいずれも売れた分に対応する費用の額にはなっていませんので、本来なら製造原価報告書に記載されている金額をそのまま使うことが出来ないのですが、売上に対応する金額は記載されていませんし、算出も難しいため製品の在庫変動が大きくなくて変動比率に与える影響が僅少と認められるなら、記載されている数字をそのまま使います。そうでない場合、合理的な計算根拠に基づいて売上に対応する部分を計算する必要があります。

税引前利益と法人税等

利益に対しては法人税等がかかりますので、使える資金は税金分を控除した残りということになります。問題になるのは税金の計算です。法人税等は、実は法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税など複数種類の税目から成り、さらに利益の額に応じて税率が変わる部分も有ったりするため、なかなか簡単には算出できませんから、当たらずとも遠からずの数値を出す方法として、次のような算式により簡易税率を計算します。

法人税、住民税及び事業税÷税引き前当期純利益=簡易計算による税率

因みに消費税等は、消費税の会計方法として殆どの企業が採用している税抜き経理方式による場合、消費税額は損益やここで扱うキャッシュフローに影響しないので無視して構いません。

法人税等に関しては特別な税制の適用がある年度の決算の場合などは簡易的に算出した値が適当でないことがあるので、会計事務所に確認するのが良いでしょう。

限界利益について

今まで説明してきた限界利益や限界利益率は会社(事業)全体の決算数値によって計算するため、実際には様々な利益率の商品やサービスが存在していても、これらの平均の数値になってしまいます。それで問題が無ければ良いのですが、特定の商品やサービスを対象に売上を増やそうとする時には適当では有りませんから、その際には対象となる商品やサービスの変動費を個別に調査して限界利益率を計算しなければならない事に留意して下さい。

必要な売上高の計算例

それでは、実際の計算を次のような条件によって行ってみます。

限界利益率60%、法人税率(簡易計算したもの)30%の場合、キャッシュフローを500万円増やすために必要な売上高の計算は次のようになります。

必要な税引前利益 500万円÷(1ー30%)=714万円(端数切捨て)

必要な売上高 714万円÷60%=1,190万円

以上の通り、この条件のもとでは500万円のキャッシュフローを作るには、1,190万円の売上が必要であることが分かります。

目標を設定する際の注意事項

前述のように、限界利益率が分かっていれば必要な売上高はすぐに計算が可能ですが、算出した必要売上高を確保しようとする際に以下のように注意すべきことがあります。

  • 現在の生産能力で目標の売上確保は可能か?設備の能力が足りなければ設備投資が、人的資源が足りなけれ採用が必要になり、ともに固定が増加するため更にキャッシュフローを増やす等の検討が必要になります。
  • 売上を増やすに当たり広告宣伝費などの経費は必要か?売り上げを確保する活動のために生じる費用が必要か否かを検討します。必要であれば、そのための資金の捻出方法の検討が必要です。その方法としては、①自己資金からの捻出、②借入金による、③遊休資産の売却、④更にキャッシュフローを確保するための売上目標を検討する、などが考えられます。

まとめ

限界利益率と法人税率が分かっていれば必要な売上高はすぐに算出できますが、実際に問題になるのは目標となる売上高をどうやって実現するか?という事です。かかるコストのこと以外にも”誰がどのような行動を起こさなければならないか?”と言うようなアクションプラン(人の行動計画)を明らかにする事が重要です。

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