月次決算してますか?
月次決算とは何か?
決算と言えば、年に一度行うものという認識が一般的です。法律的にも事業年度は1年以内に定める事となっており、殆どの会社は1年を事業年度の単位として事業活動の結果を決算という手続きによってまとめます。
年次で行う決算は、経営者が自社の経営状況を知る目的のほか、税務申告のためや株主に対する報告のために行うという目的がある訳ですが、この目的のうち経営者が自社の経営状況を知るには1年単位ではあまりにも長すぎるため、1カ月単位で決算を行い業績を把握する方法が多く取られています。これが月次決算です。会計に対するポリシーとしては、年次決算が財務会計を目的とするのに対して、月次決算は管理会計が目的となります。
月次決算は法律的な要請によるものではなく事業者が任意に行うものなので、事業者のニーズによってやり方も違っていて良い訳ですが、月次決算の延長上に年次決算があると考えて、決算をまとめる手法は年次決算のそれに倣って行われるのが一般的です。
月次決算とは、具体的には1カ月単位で損益計算書と貸借対照表を中心(つまりは残高試算表)とする業績把握情報を取りまとめる行為です。
月次決算は何のためにやるのか?
月次決算の目的は二つあります。一つは利害関係者(主に経営者、場合によっては金融機関)に業績に関する情報を提供するためであり、もう一つは年次決算で行う作業量を月次で行う事により分散・低減することです。
業績の状況把握は、経営管理サイクルのPDCAにおいてCのチェックに該当する行為です。目標に対する進捗はどうか?資金の状況はどうか?利害関係者への対応はどうあるべきか?経営方針への影響はどうか?など今後のアクションの拠り所となる情報は月次決算を基本に得ることができる訳ですから、重要なのは言うまでも有りません。後者の作業の分散・低減については、業績把握のための月次決算が行われれば必然的に実現するのであまり意識する必要はありません。
事業の規模が小さく業績はほぼ経営者の頭の中で把握可能な場合において、月次決算を省略し年次決算だけを行うケースも多々あると思いますが、利益と資金の関係などは頭の中だけでは見落としや誤った認識も生じますので、転ばぬ先の杖として最低でも残高試算表を作成することは必要であると考えます。
中小企業の月次決算の実態で感じること
中小企業で行われている月次決算の実態を客観的にみていると、いくつか思う事があります。皆さんはどうお感じになりますか?
残高試算表の提供が遅いのを我慢している
会計事務所に記帳代行を委託しているケースで良く聞くのが、試算表が出てくるのが遅いという不満です。特に資金調達をする際には金融機関から直近の残高試算表を求められるので、タイムリーに資料の提供が無ければ慌てて対応することになります。また、残高試算表が適時提供されないために、PDCAのチェックが疎かになり経営管理が甘くなるという問題も生じるリスクがあります。
こうなる原因を考えてみると会計事務所側と企業側のそれぞれに問題が有るように思います。会計事務所側の問題としては、記帳代行の目的が”年次決算のための分散・作業低減”のために行われているため、年次決算に間に合えば月次決算がいつ完了するかは問題外と考えていることによります。これは後述するように、企業側がしっかり要求することで解決すると思いますが、解決しなければ委託先を変える必要があります。
企業側の問題とすれば、一つには会計事務所に残高試算表の提供を求めないことがあります。これには理由が幾つか考えられますが、税理士の先生をせかしてはいけないという事で遠慮しているケースがあります。そもそもいつ迄に試算表が欲しいのかを要求していないケースです。当然のことですが、関与先からの要求が無ければ会計事務所側は自分の都合で仕事のスケジュールを決めるので、後回しになってしまうことが起き得ます。
もう一つは、そもそも会計事務所に提供する情報が遅かったり、完全で無かったりするために会計事務所側の作業が進まず提供が遅れるというケースです。記帳代行(簿記)の作業内容を知らない企業側では、提供している情報が十分なのか、そうでないのかの判断が付きにくいことが多いので、このような状況を引き起こしてしまいます。これは両者間での情報共有方法の質を高めることで解決しなければなりません。
月次決算から得られる情報を生かしていない
月次決算の結果は利益だけしか見ていないという方は多いと思います。勿論、月次決算以外から得る情報もあるので利益の額だけを気にしている訳ではないと思いますが、あまりに”もったいない”と感じます。残高試算表から得られる情報については財務分析の指標などが良く紹介されていますが、それ以外にも過去のトレンド、計画に対する進捗状況、前年同期との比較、キャッシュフローの状態など少し視点を広げると有用な情報を得ることが出来るので、どんな情報が得られるのかを知って意思決定に生かすことに役立ててもらいたいと感じます。
数字の検証が甘い
月次決算による経営管理情報の中核になるのは残高試算表です。残高試算表は、損益計算書とを貸借対照表を一体で表示していますから、ここから経営成績と財政状況を知ることができます。
しかし、当然のことながら数字が正確でなければいけませんから、数字の精度の確保はとても重要です。財務会計的には1円の誤差も許されない精度が求められるものの、意思決定情報を扱う管理会計としては千円単位あるいは万円単位での正確性でも問題ないので、時間をかけて過度に精度を求めるよりも、早く情報を得ることを優先します。
さて、粗利益や粗利率が大きく変動したときや営業利益あるいは経常利益が大きく変動したときなどには、変動した理由を分析することで数字の精度の検証をします。損益の数字に限らず資産や負債が大きく変動しているときも同様です。損益の数字を重視する余り、資産や負債の動きを軽視する傾向が多く見られますが、資産や負債の変動は損益に影響することも有るので注意が必要です。
このような数字の検証をせずに残高試算表などの資料を見ているケースは意外に多いのですが、その原因は経営者が数字の検証に消極的(関心が薄い)なことと経理スタッフの能力不足にあると思います。
管理会計の不在
残高試算表から得られる情報の幅や深さを高めるためには、会計処理方法や科目設定を変えるなどの必要が生じますが、やり方を変えずに従前のやり方を頑なに守るケースが見られます。会計から得られる情報の質向上は経営者のニーズから始まりますが、経営者が会計に精通していないと何をどう変えれば良いのかは分かりませんから、経営者からの指示は出にくくなるようです。
経理スタッフに経営者視点の改善意識があれば良いのですが、中々このような人材に恵まれないのが実態です。ましてや会計事務所に会計を委託している場合は、経営者との意思疎通の機会が減ることと、会計事務所の担当者は基本的に管理会計には関心が無いため改善着手へのハードルはもっと高くなります。会計事務所の会計に対する目的は管理会計ではなく、財務会計にあることを理解しておく必要があります。
会計事務所に管理会計を望むのは無理が有りますから、これを解決するには、①自社のスタッフの教育②改善の指示を出せる程度には経営者自ら会計を学ぶ③社外の協力者の支援を受ける、といった対応が必要です。
資金繰りに関する情報が圧倒的に少ない
資金繰りに関する情報は、直接的なものは残高試算表から得られないので、会計のシステムとは別に情報を集めて作らねばなりません。資金繰り予定に関する情報は、今月の資金予定のようなごく短期のもの以外は、重要な割には作成している企業が少ないように見受けられます。
これは、長いサイトの資金繰りに関する情報は少し作るのが難しいことに起因していると思われますが、行き当たりばったりの資金管理は金融機関からの信頼性が低下したりする事もありますので、資金需要のトレンドは把握することが必要です。
信頼できる月次決算のためのチェックポイント
信頼できる月次決算とはつまり”正しい残高試算表を作ること”と言って良いと思います。正しい残高試算表を作成するためにはいくつかのチェックポイントが有りますので、以下にまとめます。
売掛金を正しく把握する
売掛金は売上高の数字に影響します。会計処理の方法によっては売掛金が変動した分だけ売上高も変動します。売掛金の補助簿が作成されていて売掛金が完全に網羅されている場合を除けば、売掛金は取引先ごとに金額を確認して集計する方法で把握することになるので、漏れや間違いがないことを確認する必要があります。
また、売掛金の残高を毎月洗い替える方法により売上高を確定する会計処理方法を採用している場合で、回収不能な売掛金が生じたときに売掛金のリストから外す際は注意が必要です。回収不能な売掛金をリストから外すだけの処理では、売上高から回収不能分の金額が減額されるため、売上総利益と利益率が減少する結果となります。意思決定に影響しないよう回収不能な売掛金の損失は粗利益の計算に影響しないように処理することが必要です。
買掛金を正しく把握する
売掛金と同様に買掛金の残高を毎月洗い替える方法で仕入高などを計算する会計処理方法によっている場合、買掛金残高は仕入原価の数字に直結影響しますから正しく把握することが必要です。買掛金を多く間違えて計上すれば利益は減少する結果になります。
請求書を受け取っていて支払いがされていない額を漏れなく把握しているかをチェックします。できれば、買掛金の補助を作成したいものです。
売上原価を正しく把握する
売上原価は粗利益や粗利率の数字に直結します。小売業の場合、売上原価は仕入高と在庫変動に左右されますし、製造業においては製造原価の要素である材料費・労務費・製造経費と在庫変動に左右されますから、粗利益や利益率に大きな変動がある場合は、これらの売上原価を構成する要素の数字をチェックします。
月次で棚卸をしている場合は集計金額に誤りが無いかどうかをチェックしますが、棚卸がされていない場合はチェックする手段がありませんので、仕入・製造・販売等の状況から在庫の増減の状態を推計して妥当性を検証します。これはかなり大雑把な方法ですので、数字の精度を上げるための工夫をしていくことに取り組みます。
固定費を漏れなく把握する
固定費の計上が適正かどうかを簡単にチェックするには、時系列で固定の発生額を見るのが有効です。過去発生している経費の変化をチェックすることで間違いや漏れを発見することができます。
計上漏れで良くあるのは、月末に預金口座から引き落としになる経費について、月末が金融機関の休日のため翌月に引き落としになってしまい、そのまま翌月の経費として処理されてしまうケースです。社会保険料が代表的なもので比較的金額も大きいので適正に処理したいところです。このような場合は、未払いの経費として会計処理をします。
その他の原因で固定費の計上漏れが生じる可能性とすれば請求書の処理漏れが考えられますので、すべての請求書が正しく処理されているかどうかをチェックします。
資産や負債の増減内容を確認する
資産や負債の残高が正しいことを確認することで損益に影響する取引の漏れや誤りをチェックすることができます。前述したように売掛金や買掛金と同様にその他の資産・負債科目についても確認します。例えば仮払金の残高が正しくないときは、経費の計上漏れに繋がる可能性が高いです。
簿記会計の特性上、全ての資産及び負債が正しく把握されれば損益も自動的に正しくなります。”財産法による収益の計算結果=損益報による収益の計算結果”ということです。
まとめ
2024年にある企業が行ったアンケート調査ではおよそ4割の企業が月次決算を実施しているそうですから、残りの6割の企業は月次決算によらない方法で経営判断をしているということでしょうか。
事業の状況に関心がない経営者はいないでしょうから、月次決算をしていないおよそ6割の企業は、何か別の方法で業況を判断しているものと思います。残高試算表は経営状態を把握できる重要な資料ですし、月次決算をしておけば年次決算にかかる時間も大幅に短縮できるので、敢えてやらない理由があるとすればコストの問題なのかも知れません。
より多くの利益を出すために経営管理を行う訳ですから、コストのために月次決算を行わないのは本末転倒のように思います。とは言え、収支ぎりぎりの経営状態で、月次決算を実施するためのコストが捻出できないのであれば、背に腹は代えられませんから止むを得ないところでしょう。
いずれにしても、経営管理サイクルのPDCAを回すために、チェックからアクションに繋げて経営の質を向上させる活動を続けなければなりません。
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