月次決算とは?その実務的な課題
中小企業の月次決算の実態と課題
自社で月次決算は出来ているのか?
企業の規模が小さいほど自社で月次決算を完結させている割合は少なく、小規模企業ではほぼ会計事務所に委託しているようです。その理由は①業務を担当できる人材がいないこと②事業主にも専門知識と時間が無いことによるようです。
少し組織が充実して人的余裕が出てくると、会計事務所に委託せずに自社で月次決算業務をやろうとする企業が増えますが、会計事務所の関与が100%無くなる訳ではなく、月次決算の数値を決定づける重要な会計処理の一部を会計事務所が代行するような方法によったりするかたちで行われるようです。完全に自社処理に移行できないのは、やはり自社スタッフに専門知識が足りないことと、企業が月次の帳簿処理を内製化してしまうと会計事務所の収入源が減ってしまうので、これを避けるために肝心な部分は会計事務所が握って離さないというようなことによります。
この肝心な部分は月次決算業務において一番専門性の高い部分であるため、企業のスタッフが自分で処理することできないという事と、前述のような会計事務所の思惑が嚙み合って、完全な内製化に移行できないまま継続していくことになります。
自社で月次決算ができないことの何が問題か?
では、月次決算業務が自社で完全に行われないことに何か問題があるのでしょうか?そのデメリットには次のようなものがあります。
- 月次の業績を知る時期が会計事務所の都合になる(遅くなる)
- 前述のような状態は経営的な判断が遅くなったり間違ったりする可能性を生む
- 企業側(経営者側)の業績(業績の計算)に関する理解が甘くなる
- 組織のマンパワーに余力がある場合はコスト的に無駄が生じる
デメリットの一方でメリットもありますが、それは人材不足の補填が出来ることであり、メリットというよりはマイナスを補填するに過ぎないことなので、経営管理においてプラスに作用するようなものではありません。
月次で行う決算とは?
そもそも決算とは、一般的に公正妥当と認められる会計の手続きに従って財政状況と営業成績をまとめることで、月次決算とは、その手続きを1カ月間単位で行うものです。各種引当金や減価償却費など1年を経過しないと金額的に確定できないものは概算で月次決算に反映させ、経営判断に支障のない範囲の精度で行います。
月次決算の精度が高ければ年次決算での作業が減るので、可能なら月次決算のレベルは引き上げる方が良いのですが、月次決算の目的は主に業績把握にあるので、その目的に沿えば問題ありませんし、年次決算と違ってそもそも法律的な規制はありませんから、企業のニーズに従って行えばよいものです。
”月次決算は業績把握のために行うのだから、それが出来るのであればわざわざ良く分からない簿記の手法によらず、売上や利益の情報を独自にEXCELなどで集計して状況把握をすれば良いのでは?”というように考える方もいらっしゃいますが、簿記の手続きにより集計されたものの方が、お金の動きとの連動が取れているので数字に信頼がおけますから、同じ手間をかけるなら簿記ベースの集計を活用する方が良いと思います。
月次決算の実務的な課題
月次決算を完全に内製化しようとすると専門知識の習得と情報共有が課題となります。
専門知識の習得
専門知識の習得に関して多くの人が勘違いをしているのは、簿記の知識を修得すれば良いと考えていることです。簿記の専門知識についての一般的な認識は、会社の行う取り引きを”借方○○○貸方○○○”という仕訳にすることを指していることが多いように思います。
仕訳をするための知識はもちろん必要ですが、仕訳が出来るだけでは十分では有りません。その次の段階として必要な知識は、集計された会計情報に漏れなく必要な処理がされているか(網羅性)を検証することと、処理の妥当性を検証することが出来ることです。中小企業の月次決算業務に決定的に欠けているのがこの部分です。特に事例やマニュアルにない取引の処理について、その妥当性を検証する力は一般的な簿記の学習テーマでは取り扱わないことから習得することが難しいのです。
従って、仕訳をする力を付けることのほかには、損益とは何なのか?その計算にあたってはどうあるべきか?とか、資産や負債とはどの様な性質を持ちどうあるべきか?と言うような会計に関する本質的な学習が求められます。
情報共有
専門知識のほかに必要になるのは取引に関する情報です。例えば、何がしかの支払いがあって、その支払いに関し一定の条件を満たすとその全部が返金されることがあるような場合に、その返金に関する情報が処理担当者に無ければ、何らかの経費に計上するという判断をする可能性が高くなりますが、その情報があれば資産に計上される可能性が高くなります。経費処理されるのと資産計上されるのでは利益の計算上大きな違いがあるので、その情報は非常に重要なものですが、情報共有がされずに結果として誤った処理をしてしまうという事があり得ます。
会計処理を担当する人には、正確な処理を行うために取引の背景について情報をきちんと共有する習慣が必要です。ただし、過剰な情報の共有は時間のロスを生みますので、共有する情報を提供する側でもある程度の知識のもとで適切な情報の選択が求められます。
まとめ
月次決算を自社処理しようとするときの課題である情報共有は、比較的容易に必要なレベルに到達しますので、さほど苦労はしないと思われますが、専門知識の習得は教育の質と量及び担当者の能力など様々な要素に左右されるので中々難しい課題になります。しかしながら経営の管理サイクルのCheckを実現するために、この難題にチャレンジしなければなりませんから、外部の協力者を探して実現したいところです。
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